かつて医療や介護の現場では、高齢者のADLの向上が目標とされ、少しでも自力で日常生活動作ができるようになる事が最重要課題でした。しかし、終末期にある方、完治困難な障害を抱える方など、現場にはADLの改善が見込まれない場合も多い事から、最近ではADLに対する認識も変わりつつあります。
できない事を無理にでもやろうとするのではなく、本人に残された能力に着目し、できる事を無理なく少しずつでもやってもらう事で、自立度を高め、より主体性のある日常を送れるようサポートする事が、現場の職員の役目であると言っていいでしょう。
ADLが低下した現状を高齢者自身が受け入れ、正しく理解して、今の状態に合った介助や補助手段を選択していけるようになれば、その積み重ねがQOLの向上へとつながります。それは、環境の変化に合わせて生きる目標を再設定する事であり、人生に対する姿勢がよりポジティブなものになるでしょう。
日々接している介護職員もその事を理解し、単に身体介助をして終わりではなく、日常生活全般に対する幅広い援助を実施していく必要があります。とてもゆったりとした遅い動作を根気よく見守ってあげて、例え指一本でも自分の意志、自分の力で動かしてもらう。些細な動作でも、できた時には一緒になって喜び合う。そうした事の積み重ねが、高齢者の自信回復となり、新たな生きる目標へとつながっていくはずです。高齢者の人格を尊重した全人的な介護の姿勢が、これからますます求められていくでしょう。